はじまり
出会い
まずは人生最大の転機となったであろう出来事まで遡る。
ごくごく普通の家庭に生まれたわたしは、高校、専門学校を卒業し、そして就職した。
朝起きて、仕事へ行って、家に帰って、寝る。そしてまた朝が来て仕事へ行って…
そんな生活に疑問も持たず、ただただ過ぎていく日々。
仕事帰りや休日に友人と遊び、恋愛をし、そんな毎日を過ごしていた。
彼と出会ったのはわたしの会社員人生後半。
ひょんなことから出会った2人は、すぐに恋に落ちた。
今でも不思議でたまらないが、超人見知りで、自分の意見もろくに言えないわたしが、出会って間もない彼に素直に言葉を発していた。
ためらいもせず「好き」言えたのは、この時が初めてだろう。
初めて出会った気がしない、昔からしているような、兄弟のような、そんな感覚。
道路距離にして約600km。
そんな超遠距離恋愛が始まった。
2009・転機
幾度となく大喧嘩を繰り返しながらも、2人は結婚した。
結婚して1年目に長女、翌年に長男、そしてその翌年、次女を授かった。
はたから見れば、順風満帆。そんなごくごく普通の家族の物語。
だけど、全ては序章に過ぎなかった。
2012・幕開け
次女誕生の数か月前、夫は会社を設立した。
農業離れが深刻化したこの時代に、農業法人を立ち上げたのだ。
ふとしたことから準備もなく始まったその会社には、すでに従業員が存在した。
小さな小さな会社だが、社長となり、従業員の生活まで担ってしまった夫。
ご存じの通り、農業は楽ではない。
ましてや見知らぬ土地、宛てもない。農地もない。何もない。
ゼロからの幕開けだった。
次女3ヶ月。
わたしは決意した。
夫の手伝いをする、と。
3人の子供を保育園に預け、わたしの百姓の妻人生が始まった。